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三つの不思議な話

三つの不思議な話

昔、西多摩郡調布村(現青梅市)に2人の樵がいた。名前は茂作と己之吉と言い、茂作は70才の老人で、己之吉は18才の若者で樵の見習であった。ある日仕事が終った帰りに急に吹雪になった。当時多摩川には橋があったが大水のたびに流されており、代わりに渡し船があった。だが、あいにくその渡し船は川の対岸に繋がれていたので、やむなく近くの船頭小屋に逃げ込んで一夜を過した。吹雪で寒いので2人は入口の戸を固く閉めて寝たが、寒くてなかなか寝付けなかった。しかし仕事の疲れもあり、いつしか2人とも眠ってしまった。己之吉が夜中にふと目を覚ますと入口の戸が開いていて目の前に白い装束をした若い女が立っていて、茂作に口から息を吹込んでいた。その息は白い煙の様に見えた。やがて女は己之吉の方へやって来たので己之吉は思わずぞっとして、身をちぢめると、女は己之吉をじっと見て「お前はまだ若いから今夜は見逃しておこう。ただしこの話は絶対に人に話すな」と言って入口の方から出て行って煙の様に消えてしまった。己之吉が朝になって気が付いて見ると茂作は死んでいた。

その後5、6年たって己之吉は山へ行く道を歩いているうちに若く美しい女に出会った。 女は京へ行って奉公口を探す為と言っていたが、一緒に歩いて話しているうちに自然に仲が良くなり、とうとう京都へは行かず、2人は結婚することになった。

昭和62年5月(1987) 青梅市沢井 御嶽渓谷
昭和62年5月(1987) 青梅市沢井 御嶽渓谷

 

娘は姑にも気にいられて仲よく暮らし、10年の間に7人もの子供を生んだが、ある日編物をして姑のそばに座っている嫁を見ているうちに、己之吉はある事を思い出した。

平成16年8月(2004)
平成16年8月(2004)

 

それは嫁があの吹雪の夜に会った女にそっくりであったからである。そして女からあの吹雪の夜にあった事は絶対に人に話してはならないと言われていたのを忘れて、思わずあの白装束の女とそっくりだという事をしゃべってしまったのである。すると女は突然立ち上って「私がその夜の白装束の女だ。子供の事があるから今日は帰るが、もしも子供を粗末にすれば命はない」と言ってどこかへ消えてしまったと言う。似た様な話は雪国の各地に伝えられている。

2番目と3番目の話は私が幼い頃体験した話だ。

2番目の話は、日時は覚えていないが、たしか私は10才位だったと思う。夏の夜、私は大人に連れられて多摩川の堤防に登った。そして広い多摩川の、対岸の滝山丘陵の下の道のようになっている所を見た。すると山端を白い光のようなものが点々と移動しているように見えた。すると大人は私に、あれが「狐の嫁入り」だと教えてくれた。何でも俗説では狐は口から火をはくので狐火と言い、狐が夜何匹も移動すると狐の吐く狐火が嫁入りの時の提灯行列の様に見えると言うのでその名があると言う。

私はその時はそうかな、と思ってその後家に帰って来た。

平成11年4月(1999) 拝島町
平成11年4月(1999) 拝島町

 

3番目の話は北多摩郡砂川村(現立川市)で農家の白い倉の上に「人魂」が出ると言う話である。人魂とは夜間に空中を浮遊する青白い火の玉で古来死人の身体から離れた魂と言われていた。その時も大人が幼い私を連れて行ってくれたが、その時も夜で暗かった。農家の白壁の蔵の上に何か光るようなものが見えた。私を一緒に連れて行ってくれた大人が、あれは人魂だ、と話してくれた。私も納得して帰ったが94才になった今考えてみるとそれが何であったかよく解らない。

平成3年2月(1991) あきる野市 野辺
平成3年2月(1991) あきる野市 野辺

 

現在は9割が市街地に住んでいて純農村に住んでいる人は1割位だが、戦前は農村が全体の6割もあり、今より街全体が暗かった事は事実で、何か関係があるかも知れないが、とにかく2番目の狐火と3番目の人魂は私の幼い胸に深くきざみ込まれていた。

最初の「雪女」の話は私が趣味の写真を撮りに出掛けた青梅の天寧寺に行った時、参詣に来た人がこの辺では妖怪の話があると話しているのを聞いたのが始めであったが、その後その話はギリシャ生まれで明治23年(1890)来日し、旧松江藩士の娘小泉節と結婚、日本に帰化して松江中学、東大、早大などで英語、英文学を教え、日本に関する英文の印象記随筆物語を書いた小泉八雲の書いたものの中に出ていた。青梅出身で奉公に来た娘から聞いた話をもとにしたものと言われている。私は八雲の本は読んでいないので、今回は青梅観光案内所のパンフレットを参考にした。

青梅にはほかにまだまだいろいろ妖怪の話があるようだ。

2018-09-28 11:02:00

榎本良三のエッセイ