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五日市憲法草案について

五日市憲法草案について

JR五日市線の終点五日市駅で降りて、秋川の流れにそった道と反対の道を行くと、明治憲法公布の前後に五日市周辺のグループに加っていた千葉卓三郎によって起草された「五日市憲法」と呼ばれる憲法草案が発見された場所に行きつく。
伊藤博文が中心となって明治憲法すなわち「旧憲法」が公布されたのは明治23年の事であった。
江戸幕府を倒して明治維新を実現した志士達は、廃藩置県・四民平等・散髪脱刀令など初の内務卿となった大久保利通を中心として改革を進めた。その後征韓論等の意見の対立から下野して薩摩に私学校を設立し、その生徒を中心とした明治7年の西郷隆盛など士族の反乱を抑えて、維新政府を確立し、中央集権が実現した。それまでは国と言えば藩の事であり、明治維新によって始めて日本は近代国家を確立して列強の仲間入りをしたのである。西郷隆盛は士族に押されて反乱を起して熊本城をかこんだが、後に敗れて城山で敗死したとき、大久保は西郷が死ねば私も殺されると予言していたが、その予言通り、登庁の途中2人の暴徒に襲われて殺された。
その後を継いだのが吉田松陰の松下村塾の門下生の一人である伊藤博文である。伊藤は明治維新の総仕上げとも言うべき明治憲法の起草に当り、調査のためイギリス及びドイツに出張したが、イギリスよりもドイツの憲法の方が日本の国情に合っているとして、ドイツの憲法を参考にして日本国憲法草案を作り、明治天皇の裁下を得て明治23年に公布された。それは当時としては、それなりに合理性を持った憲法であった。
しかし当時は新しく設けられた参議にはなったが、西郷隆盛らと共に下野し、明治政府で志を得なかった板垣退助らによって創設された自由党を中心として激しい議論が行われ、前述の東京経済大学教授であった色川大吉氏によって発見された「五日市憲法草案」をはじめ板垣退助の系統の立志社の人々の作った「日本憲法見込案」、大隈重信・福沢諭吉の系統の交詢社の人々の作った「私擬憲法案」などが創られた。その中で、五日市憲法草案はもっとも細かな人権規定を持つ事で知られている。

それは1880年頃、学習結社「学芸講談会」による研究と討議の結果、五日市の勧能学校の教師であった千葉卓三郎によって起草されたものである。

話を元にもどすと、前述した通り私は駅前で聞いた道をずっと歩いて行った。3,40分位歩いただろうか200坪位の敷地にお墓と白い倉が立っている場所に出た。人は誰も住んでいないようだった。

深沢家屋敷跡 平成30年8月(2018) あきる野市深沢
深沢家屋敷跡 平成30年8月(2018) あきる野市深沢

 

山間地では先祖代々のお墓と家が同じ敷地に立っているのを私は他でも見た事がある。
その敷地には深沢家の墓と白い倉が立っていた。深沢家の墓は七つか八つあったのでそこに丁寧にお参りした後、白い倉をしばらく眺めていた。その倉には五日市憲法草案が発見された倉である旨の五日市町教育委員会の簡単な説明文が立っていたように記憶している。

深沢家屋敷跡 平成30年8月(2018) あきる野市深沢
深沢家屋敷跡 平成30年8月(2018) あきる野市深沢

 

私がなぜこんな場所に来たかと言えば、私は戦後、志をたて多摩だけをテーマとして好きな写真で時代の記録を残す活動を続けていたからである。
私は山の中でその白い倉を30分ながめて色々な連想を膨らませていたが、もと来た道を引返して五日市の駅から家に帰った。

私にはこの千葉卓三郎の憲法草案が当時の憲法論争の中で伊藤博文の憲法草案にどの様な影響を与えたかはよく解らない。しかしこの憲法草案にこまかな人権規定があった事が後世評価されるのは結構な事である。

五日市憲法草案の碑 平成30年8月(2018) あきる野市
五日市憲法草案の碑 平成30年8月(2018) あきる野市

 

明治憲法でも思想言論集合結社の自由の規定はあったが、それはあくまで法律の範囲内と言う条件付の規定であった。そのため共産主義の宣伝禁止の名目で治安維持法と言う悪法が出来、満州事変に始まり中国や米国を中心とする連合国に対するいわゆる十五年戦争の期間を通じて侵略に反対し平和を望む全ての人々に適用され、終戦間際には私の尊敬する哲学者戸坂潤や三木清なども投獄され戦後釈放されるのがおくれて三木清は獄死した。
これらの歴史を考えるとき憲法も時代の経過とともに必要があれば改正しなければならないが、現在その時期だとは思わない。
憲法と自衛隊との関係が色々と論議されているが、本来自衛権というものは国際法上認められているので、ことさら憲法に明記する必要があるとは思わない。

2018-12-12 11:19:00

榎本良三のエッセイ