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アナログ写真の降盛とデジタルへの急激な移行の歴史(1)

アナログ写真の降盛とデジタルへの急激な移行の歴史(1)

アナログ写真の開発の歴史

坂本謙郎

 写真技術は100年以上前から自分の見ている社会を画像にしようと大変な努力をしてきた。古くはダゲールの写真術から始まって、写真技法として確立するまでは銀メッキをした銅板を感光材として使ったために、日本では銀板写真と言われ、江戸から明治にかけて普及した。感度が大変遅かったので、撮影するのに30分から1時間かかった。そのため人物が動かないように、後ろに固定器具を使用した。その後ハロゲン化銀写真システムが銀板写真に代わって出現し、長足の進歩がなされ、白黒写真から始まって、カラー写真、映画用写真、印刷用フイルム、レントゲンフイル ム、赤外線フイルム、宇宙線用フイルム、など、ハロゲン化銀を使ったシステムが世界を風靡した。その間にシルバー・ダイ・ブリーチ、ポラロイド等のシステムも発表されたが、メジャーになることはなかった。

知られざる写真産業:ハロゲン化銀写真システムの写真フイルム

 現在の銀塩写真注1(ハロゲン化銀写真)は第二次大戦前前から長足の進歩を遂げ、軍用では偵察用航空写真、射撃訓練用などにも使用された。また宇宙線用なども開発された。
一般には知られていないことだが、実際にフイルムを製造する際の製造ラインは、初めから終わりまで全暗黒である。考えてみれば当然で、光に当たるとカブってしまい商品にならなくなるからだ。しかも全暗黒の下で、最低13層ほどのミクロンオーダーの厚みの性質の異なる層を透明なプラスチックのフイルムの上に液体のままに一挙にコートし、乾燥させてしまうのだ。その技術を持っていたのは、大手ではイーストマンコダック、アグファ、富士写真、コニカの4社で、この4社が世界の需要を独占していた。当然ながら夫々の利益もかなり大であった。
使用する材料のメインは光に感じるハロゲン化銀という銀の化合物で、光りセンサーの役目をするミクロンオーダーの結晶とそれを分散保持させるバインダーとしてゼラチン10数層の異なった組成の超薄膜を保持する、透明なプラスチックのフイルムが主要な材料であった。

今だから話せる材料についていくつか裏話をしてみよう。

注1:銀塩写真は、乾板や写真フイルム、さらには印画紙に、銀塩を感光材料として使用する写真術による写真である。銀塩写真のうち、写真フイルムを使うものをフイルム写真という。銀塩写真用のカメラを銀塩カメラ、またそのうちで写真フイルムを使うものをフイルムカメラと称する。

主要材料である銀について

 感光材料の一番主役のもとになる銀は、主にニューヨークの市場から入手していたが、写真会社は金属商社と同格に貴金属取引が公認されていた。銀相場は毎日変化するので、専門の担当が直接取引をやっていた。先物取引で損したり得したりしていたようだ。コニカでも数百トンを扱っていたので、相当の金額だったようだ。倉庫には、かなりの銀がインゴット(延べ棒)の形でうずたかくしまわれていたが、その光景を見ると、昔あったアメリカの銀行強盗の映画を思い出した。
銀は投機対象であったため、ある時期アメリカの投機家に買い占められて銀の価格が十倍ほどに高騰したことがあって、ニューヨーク市場でなく、ほかのソースを探したことがあった。出てきたのはなんとインドの上位カーストの金持ちだった。なんと飛行機で運んできたのだが、全部銀器類だったのは驚いた。金持ちでも桁が違った。
写真用にはそのままでは純度不足で使用できないため、少なくともテン・ナイン注2程度には純度を高める必要があった。実は感光体として使うのにはそのくらいの純度にしないと使えなかった。

注2:テン・ナインとは、半導体結晶の純度を示す値で、99.99999999%という限りなく100%に近い純度のことである。9が10個並ぶためにテン・ナインと呼ばれている。

銀はハロゲン(臭素、塩素、ヨウ素)との化合物として使うのだが、ハロゲン化銀の写真用として使う結晶は、デジタル半導体の素子と同じ半導体で、光りを当てると電子が流れる。そのような半導体理論が出るまでは、半導体と知らずに使っていた。人間の力というのは素晴らしいといつも思う。ただただ光に感じる方法を追及した結果、ハロゲン化銀に到達したのだから凄い。ハロゲン化銀結晶はブルーの光しか感じない。逆にシリコン半導体は、赤外線から可視光線までかなり広い感光性を持っている。それぞれをどうやって目的の色に感光性を与えるかは別の章で述べる。

ゼラチン

ゼラチンは一般的には食用ゼラチンとしてお馴染みで、ジェリーなどに使われているが、古くは膠(にかわ)として接着剤に使われた。写真用は主に牛の皮か骨から抽出したものが使われたが、一番上質の物を使っていた。食用は二番目だ。
ゼラチンは写真用が主流で、世界的にも大半が写真用に使われた。生産地は日本、ドイツ、アメリカで年間数千トンになった。 フイルムに使用される理由は、フイルムが 現像されるとき、現像液が浸透する必要があるからだ。一時代用品として人工ポリマーが考えられたが、日が経つと現像液が浸透しなくなり、使用をあきらめた。今でもゼラチンかわる代用品はない。天然ゴムの代用品が無いのと同じようだ。

フイルム支持体(フイルムベース)

 ゼラチンにハロゲン化銀の多層を支持するのに、初めはニトロセルローズという素材を使っていた。むかし学校で使っていたセルロイドの下敷きに近い成分で、木材を化学処理したものだが非常に燃えやすい性質があり、しばしば、火事のもとになった。 むかし映画館でよくボヤが出たのも、フイルムの自然発火が元だった。そのために、より安全なセルローズアセテートという難燃性の素材に変更され、映画館のボヤは殆どなくなった。
フイルム支持体を造るときは、非常に平らな動く銅板のベルトの上に、セルローズ化合物の有機溶剤に溶かした液体を流し、数十メートル移動させながら乾燥し、非常に薄くてすこぶる平らで透明性の高いフイルムを、1ロット数百メートルの単位で作る。このフイルムの特徴は、平らで透明なだけでなく、縦横ともに方向性が無いことで、光の挙動を変えないことが必要であった。この製造方法で作ったものは無偏光であるために、次世代のデジタルテレビの最全面の透明層に大量に使用されている。このフイルムを造れる技術を持ったメーカーはフイルム産業しかなく、現在でも旧写真メーカーが最大手である。その他のフイルムは製造過程で強度を出すため、延伸方向に引っ張られるので、どうしても光の偏光がおこってしまう。縦横とも光が偏光しないフイルムは今コニカ、富士写真が世界の大手で有り、液晶の前面透明層に使われている。画面が巨大化すればするほど需要が大きくなる。ひょんな所にビジネスチャンスが有るものだ。

フォトレジスト

聞きなれない名前だが、フイルム時代の印刷の元版を作るときに、版のパターンを焼き付けるための樹脂がフォトレジストと言われ写真業会の得意分野であって主に印刷用に開発された、これの特殊な樹脂に大変なノウハウがあり、半導体の最先端の技術で日本が再大手で東京応化、富士写真などなどが有名である。
こんな経緯でアナログ写真は殆ど衰えたとはいえ、その時代の技術にはいろいろな分野に波及効果がある。

2022-07-21 11:39:23

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