×

CATEGORY

CONTENTS

CATEGORY

HOME»  記事一覧»  坂本謙郎のエッセイ»  アナログ写真の隆盛とデジタルへの急激な移行の歴史(2)

アナログ写真の隆盛とデジタルへの急激な移行の歴史(2)

アナログ写真の隆盛とデジタルへの急激な移行の歴史(2)

アナログ写真とデジタル写真

坂本謙郎

アナログ写真のメリットとデメリット

 アナログ写真はおよそ100年の歴史を持つが、そのシステムの欠点は、殆どの作業が化学反応を使ったものだったという点にあった。水を媒体にする作業が主体だった為にどうしても全暗黒で、しかも水に溶かした薬品で処理しなければならず、非常に複雑な工程を経ないと写真画像が姿を現さない。そのうえ長年のうちにフイルムの種類が増えて、そのたびに処理方法が変化し、大変複雑な系列に分かれた。
 そのために現像処理をする装置も多種にわたり、ますます扱いづらいものになっていった。その最たるものが、アメリカのイーストマンコダック社が開発したコダクロームという名称のスライド用カラーフイルムであった。
 フイルムの層数は10層を越え夫々が違う色の光に感じるように設計されたモノクロームの感光層からできており、現像の時に着色するように出来ていた。それぞれ決められた層に決められた色を着色し、スライド陽画を造る神業のような化学処理を行うため、世界中の現像ラボが競ってそのライセンスを取った。
 日本でも数か所がライセンスを取り営業していたが、その複雑さと管理の精密さ、全処理に手間がかかったため、一時は、世界中でコダクロームを現像できるラボは高い技術を持つ現像ラボとして全幅の信頼を得ていた。

 もうこんな手間のかかる、生産性を無視した製品は再びお目にかかることはしかし余りにも面倒な作業ゆえに他のカラーフイルムとは全く別の扱いを受けていた。現像ラボとしては経営上有り難くない部分でもあったので、フイルム産業の末期には、ハワイのラボしか残らなかった。天然記念物にしてでも残したかった技術であろう。システム全体をスミソニアン博物館にでも永久保存出来たらと思う。
 本音のところは、当時ドイツの写真会社のAGFA(アグファフォト)のフィルム技術の詳細はドイツ国内に秘匿されて米国は知ることが出来なかったため、もっと簡単な方式があったのに真似られないことがコダクローム開発の動機であった。

写真技術の輸出話

 私どもが会社員になって10数年たったころ、映画用のフイルムプラントの輸出の話が、コニカにソ連(旧ソビエト連邦)と中国から来た。フイルム産業は世界でも企業数が少なく、世界的に独占企業であった。どちらかと言えば、ノウハウのかたまりであったので、輸出の是非についてはその可否を巡って大論争になったが、最終的には両国についてOKが出た。我社にはもともとプラント輸出部なるものがあって、自社のプラントを海外に輸出する業務を担っていたため、その部署がソ連、中国の両方を担当した。ソ連は比較的早期に輸出がはかどり、日本から材料を供給している間は少量ながらフイルム生産が出来たようだが、途中で全く中止になった。理由は純度の高い薬品が自国で生産できないためだったようで、機材も風雨にさらされて使い物にならなくなったようだ。一方中国は、途中までしか進まず、何人もの見学団が来たことがあったが、見学コース以外に数人がいろいろなところに勝手に入り込んだりして、トラブってその先には話がすすまなかった。技術を勝手に手に入れようとする中国のその性向は今でも起きているほかの問題と変わらない。

  

 結局アナログフイルム産業は殆ど化学技術を応用したもので、いわゆる"水系"システムで、しかも全暗黒という制約の多い環境でおこなわなければならず、研究負荷、コスト、商業ベースの複雑さなどから見て"ドライ系"というデジタルシステムに叶わない必然があった。

デジタル写真発祥とブレークの歴史

日本でのデジカメの発表

 日本でのデジカメのプロトタイプは1971年、ドイツの見本市で発表された新製品で、ソニーの"MAVICA"の名前で発表され、大反響を齎した。ただそのころは、画像をとらえるセンサーもデーターを記録するメモリーも、いまのデジタルカメラと大違いだった。メモリーはいまのような大容量・小型でなく、そのころの大型コンピューターに使われていたフロッピーデイスクが使われていたため、一コマの画像を取り込むのに数秒かかった。今のカメラとくらべると、月とすっぽんである。
 その後CPU(コンピューターの頭脳)の長足の進歩によって4000万画素~5000万画素、ISO感度2~3万など画像認識技術などが大きく進歩、人の顔はおろか動物の識別能力なども急速に発展を遂げていて、木立の中の鶯を瞬時に識別し、ピントが合うようになってきた。今は良い写真を撮ろうと大型のカメラとレンズを使っているが、いずれはもっと小型で性能の良いカメラが期待される。

ミヤマウグイス   江里口敏明氏撮影

 つい最近スマホ(アイフォン)で4000万画素を超え、しかもファイル形式が本格的な画像形式で得られるものが出現した。現在はA-3の大きさまで伸ばすまでは高級カメラと遜色ないプリントを得られる。画像を記録するメモリーもインターネットのクラウドを利用すれば数千枚は楽にとれる。フイルム時代は海外に出かけて1000枚の写真を撮ろうとすると36枚撮りのフイルムを持って行ったにしても、約30本を持っていく必要がある。上手くとれているかどうかは、撮影現場から帰ってからでないと判らない。今はそんな苦労をせずとも、その場で確認でき、時間と労力を考えるとデジタルが圧倒的に有利だ。 

アナログ写真がなぜデジタル写真に負けたのか

 アナログ写真は化学技術の塊であり、その中のハロゲン化銀は光半導体でデジタル写真のシリコンセンサーと同じ原理で出来ている。化学技術の粋の集積ともいえるハロゲン化銀アナログ写真において、一番ネックであったのは、水を使うことであった。そのためセンサーであるハロゲン化銀のサイズはデジタルセンサーのように規則的に同一サイズに揃えることは不可能で、感光素子(ハロゲン化銀)のサイズは自然分布になる。従ってアナログ写真では受ける光をそれぞれ違うサイズで捉えて画像にする典型的なアナログ方式であり、まさに化学技術の集大成ともいえる、
 一方デジタル写真はエレクトロニクスの精緻な集大成と言える。その事情ゆえに、アナログと違って光が碁盤の目のように、おなじサイズのピクセルに当たって記録される。その記録はカメラ内の記録装置に蓄積される。そのデーターは電気的に拡大加工が自由にできることが有利に働いて、ますます発展進歩速度が増している。ひところ世界の80%を占めた日本の半導体の勢いは、いったい何処に行ったのだろうか。
 しかしながら、アナログ技術のなかには素晴らしい技術遺産がある。そのなかで、シリコンウェファー技術、線幅1ミリの100万分の5程のパターンの加工精度、立体的感光性樹脂製造技術、などなどアナログでつちかってきたデジタルに不可欠な技術が多数あり、ますますその重要度が増している。デジタル全盛の時代ではあるが、アナログの優位の部分もまだまだ尽きない。

 何故なら人間はアナログ信号しか感知できないからで有る。

2022-10-28 10:05:31

坂本謙郎のエッセイ   |  コメント(0)

 

コメント

お名前
URL
コメント