日本の色
社会人をやめてから久しい。齢90を過ぎ、コロナもあってお洒落どころではなくなった。それでも人々の服装など見ていると随分変化が起きている様だ。和服を着ている人をたまに見かけるが、本当に稀である。よいものを見ると付いて行ってみたくなる。たまたま、知りあいの女性から着物のサンプル見本を見せて貰ったとき、色についてはわたしも専門だが、日本の着物の色のデリケートさには本当に驚いた。例えば“老松(おいまつ)”は松の葉の色の地味なもの、゛樺茶(かばちゃ)“は茶色のくすんだもので、日本ならではの色味である。サンプルは縮緬(ちりめん)の生地に染めつけられたもので、総数で40種類を超えるものであった記憶がある。
この生地を使って今でも実用にしているもので思いつくのは、落伍界の師匠たちがきている着物類である。高座にあがって暫くすると羽織を後ろに落とす、ぬぐとは言はない、何ともイキな動作である、羽織を脱ぐというか落とすというさまである。絹織物であるから出来る所作である。そのほかに花柳界(今はそんな言葉はないか)では使われているだろう。
正直に言うと写真でもこの様な微妙な色が再現できる事が理想だった。この色目は天然の植物などから得られた染料で、その色標本には普通では見られない、色の名称だ。こんな優雅な名前が日本文化から消え去るのは、大変残念に思っている。 つい最近、オリンピックで何とも言えない、不可思議な色とデザインが使われたが、これ程の深い文化を持っている日本の良さが全く生かされていない。 誰がデザインし、誰がどんな意味で作ったかは定かではないが、何ともデリカシ―にかけた産物だ。 何処かの国を彷彿とさせる。大変残念に思うのは私ばかりではないだろう。