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90年間にはまった趣味と出来事

90年間にはまった趣味と出来事

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坂本謙郎

1)ヒバリの三段鳴き

 ヒバリの三段鳴きという言葉を聞かれたことがあるだろうか?
 ヒバリが麦畑や川原で天高く飛んで鳴いていることはご存知だと思うが、その鳴き方には三種あることをご存じだろうか。
 いわゆる“三段鳴き”と呼ばれている鳴き方で、雄のひばりが鳴きながら、はじめは決まった高さに上がりきる、語尾を上げる鳴き方をし、最高点に達すると違う鳴き方に変わり、降りるときには語尾を下げる違う鳴き方をする。鳴き終わって降下するときには、自分の巣から遠い場所に降り、自分の巣の位置を知られないような所に降り立ち、それから巣が蛇などに悟られないように自分の巣に歩いていく。そのために人間が巣を見つけようとするなら、親が巣に帰り着いた頃を見計らって近づき、親が驚いて飛び立つところを見て、その巣の位置を見つける。石の下とか草の根本に綺麗に草で編んだ巣の中に、ヒバリの子供が大きな口を開けるのを見た瞬間は大感激である。
 本当に稀であるが、たまたま蛇がヒナを襲う場面に出くわしたことがある。その時、親鳥が自分が傷付いているようなふりをして蛇を巣から遠ざける様は 小動物でも子供を守る本能を見て感動した。
 同じような事だが、巣にいるヒナも排泄物を巣の中にしないで外にお尻を出して行う、それを親鳥がさらに離れた所に持っていき、天敵から気付かれないような距離まで運んで行ってしまう。これらの一連の行動は、誰が教えることではない、親の行動もヒナの行動も長い年月の上で遺伝因子に起こった変異で伝わっていくのであろう、自然とは大変な事を仕出かすものだ。偶然にしては余りにも出来すぎだ。人間が、一番本能が少なくなった生き物ではないだろうか。

長野県

2) ライフル銃とデパート

 男の子であれば誰でも一度は欲しくなるであろうものに鉄砲がある。私も例外無しで 戦後間も無い頃に向かいの山に遊びに行っていた時、米兵が二人いて、一人がたばこを咥え、それをもう一人の米兵がライフルで狙って見事に撃ち落としたのを見て、いたく感激した。どうしても欲しくなって、アメリカに住んで居た友人にカタログを頼んだ。アメリカはご存じの通り銃社会であるから、50ページを超えるカタログがそろっていた。猟に使うライフル銃から射撃用の自動拳銃、回転式拳銃など有名メーカーから小さなメーカーまで、世界中の銃が揃っていた。特にドイツ、スイス、ベルギーなども含め、ほとんどの国の銃が載っていた。私はその中から、ウィンチェスター16連発という、西部劇に出ていたのを選んだ。今にして思えば想像できないが、その頃は今と違ってデパートで銃まで売っていたので、 日本橋三越で買うことにした。今では想像できない事であろうが、何でもそろう百貨店として、銃まで販売していた。購入するには、警察に購入申請して、その許可証を持って行けば、いとも簡単に購入できた。購入後銃砲店に行き弾薬、ケースなどを求めれば全て完了する。

M1892 CARBINE USA Rakutenカタログより

 私の銃は射撃専用銃だったのでライフル射撃場でしか射撃できないため、埼玉県の富岡とか公式のライフル射撃場しかでしか射撃が許されなかった。ライフルスコープをつければすごい精度でヒットするが、残念ながら射撃練習にしか使えなかった、年間一度検査があっただけの戦後間もない時期であったため銃弾も好きなだけ買えたが、間もなく銃砲店占での乱射事件などで取り締まりが厳しくなり、16連発だった私の銃も最期には3発までに制限されてしまった。暫くたって、ライフル協会に入ってないと許可が出ないとういことで、残念ながらお上に返上してしまった。余談だがライフルの弾丸は制限なしに買えた。日本製はなくヨーロッパかアメリカ製で自由に購入できた。一番評判がよかったのは、スエ―デン製のダイナマイト・ノーベルだった。アメリカ製も良かったが値段の安かったソ連製は弾丸が的に当たらなかったり、時々発射しなかったり全くつかい物にならなかった。やはりお国柄が出ていると感じた。現在でもその傾向は残っているようだ。
 私の持っていた銃は、22口径という銃の中では一番小さい射撃専用銃で狩猟には使えない。同じ銃だがオリンピック競技専用銃は世界競技用の精密な作りを必要としているために、メーカーは限られる。例えばドイツ製のアンシュッツとか限られた同じ製造でも出来が違ってバラ付きがでるため、一番出来の良いものは自国の選手にしか使わせないとされる。私の会社に学生時代に国体のライフル銃選手だった同僚がいて、いろいろ教えて貰った。彼もアンシュッツを使っていた。私の銃は競技射撃用ではなったが、正確にヒットするためには引き金の引き方がかなりデリケートで、銃身がブレないように静かに引く事が大変大事だと教えてもらった。銃身がブレないように静かに引く、これによって的の真ん中に適中するかどうか決まる。その経験のおかげで、写真機のシャッ―の切り方は大変上手になった。趣味の世界の事が仕事に初めて役にたったのである。

3)  切手集めと土蔵

 小学校の頃切手集めが流行った。裕福な友達から収集ブックに挟んだ色々な切手を見せられて、大変欲しくなったが何にしろそのころは貧乏で大枚をはたいて購入できる身分ではなかった。古くは明治以来の1銭だとか五厘などの、今は単位が無い切手などと、特別サイズの記念切手など高価なものを見せられたが、何せ貧乏なことから指をくわえて見ているしかなかった。そこで当時私の家には蔵があることを思いだして、暗い土蔵の中に入って明治時代の古い箪笥を開け、昔の封筒やはがきを取り出して切手を探して切手帳に張った。その程度では全く収集とは言えなかったが、中学に行くようになって、親父さんが郵便局長をやっている友人Y君が出来て、そこそこ手に入れられるようにはなったが、Y君の様にはいかなくて、すばらしい切手を手に入れる夢しか見られなかった。
 今でも思い出すのが、三銭切手とか、明治時代の複葉の飛行機の切手とか、縦に長い記念切手の見返り美人とかよだれが出るほど欲しかった。今でもその情景が目に浮かぶ。
 それをきっかけにして色々な趣味に没入することになった。日本ではなく、外国の切手を見せられたが、高くて勿論手が出なかった。そのころ凹版の綺麗な切手がブラジルから出されたのを見たが、インクの凹凸があざやかに表現されていて、のちに印刷を勉強して始めて凸版、凹版、平版と三種も方式があることが分かった。今は千円札などに多用されている、精密印刷が、海外では多用されいて他国にも売れるように工夫されていた。
 印刷と言えば普通の印刷でなく特殊な印刷が色々な分野で使用されている。たとえば通貨の紙幣がある。凹版印刷は特に日本の千円札、一万円札などで多用されていて精密さは世界一とも言われている。余談だが一万円札などは、偽造されないように隠し文字、磁気インク印刷、透かし、超微細文字などなど、印刷技術の粋が埋めこまれている。しかも印刷用紙も楮、三椏などの特殊な天然繊維が使用されているため、かなりの期間使用されても、十分な丈夫さを持っている。
 印刷と関係ない様に見えるデジカメとかスマホのミクロン単位フィルターにも精密な印刷技術が密かに使用されている。昔よりも隠れた所にひっそりと印刷技術が使用されているのだ。古来の版画等に使用されていた手法が、いつの間にか先端技術に使われ、切手で利用されていた技術がいつの間にか現代の先端に使用されている。80年前には全く想像がつかなかった事が起こっている。便利という言葉で過ごしているが、何か“便利”という言葉で大事な自然を失っているのでないだろうか?

2023-10-20 11:06:56

坂本謙郎のエッセイ   |  コメント(0)

 

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